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本編でアークライトが出てくる前に何とかしたかったクリスとの再会妄想。
時系列はサルガッソから帰ってきた後の設定です。
短め。
+++
■再会
あの古戦場での戦い以来、カイトは父とともに研究室に篭りっきりの生活を送っていた。
アストラルの飛行船に記録されたデータを事細かに解析し、いち早くバリアンに関するより多くの情報を収集するためだ。
バリアンについて、現時点ではまだ情報らしい情報は集められていないのが現状だ。
奴らがこの世界に現れた時に発生する強大なエネルギー反応を捉えてからの対応では後手後手にならざるをえない。
いつまでもそんな状態では駄目だ。
数時間の仮眠を終え父の待つ研究室に戻ったカイトは、扉の前に立った所でふと嗅ぎ慣れたコーヒーの芳香に気づく。
「また、父さんは……」
カイト以上に解析にかかりっきりな父は、眠気をコーヒーで抑えつけるような生活をもう何日も続けている。
いくら多くの情報が欲しいからと言って父が体を壊したのでは意味が無い。
そう苦言を呈したカイトの言葉も暖簾に腕押しとはまさにこのことだろう。
仮眠のため席を外したカイトの目を盗み、父はまた性懲りもなくコーヒーを飲んでいるのだ。
カイトは小さくため息を吐くと、天才と言われている割にどこか頑固で融通のきかない父に一言物申すべく、重く閉ざされた扉を開いた。
「いい加減、カフェイン中毒になっても知らないからな!」
投げやりな言い方になってしまうのも仕方がない、とカイトは半ば開き直るように叫んでいた。
しかし、覗きこんだ部屋の中、カイトの声に小さく肩を跳ねさせたのは思いもよらない人物だった。
「えぇと……すまない。どうも癖になっているようで──」
「え……」
父のものではない声。
カイトの声に振り向いた父のものとは似ても似つかない長い髪の毛に、カイトは思わずその場で立ち尽くす。
驚きか、それとも緊張からかぎゅっと喉が詰まるような違和感に、カイトはそれでも何とかその人物へ掛ける声を絞り出した。
「クリス……」
「久し振りだね。カイト」
元気にしていたかい?と声を掛けられ、カイトはまるで小さな子どものように、小さく頷くしかなかった。
「……父さんは」
研究室を見渡しても父の姿は見当たらない。
つい先程まで仮眠を取っていた自分にわかる筈もなく、カイトはクリスに尋ねていた。
「あぁ。Dr.フェイカーなら、仮眠を取っているよ」
カイトの問いに答えながら、クリスは何故か申し訳なさそうに、手にしていたマグカップを机に置いた。
「勝手に頂いてしまって悪かった。昔と同じ所にあったから、つい癖で」
「いや……構わない」
クリスの謝罪にカイトは首を振る。
「てっきり父さんだとばかり思っていたから……」
そんなカイトの言葉に、クリスは苦笑を漏らした。
「カイトに止められるほどコーヒーが手放せないということは、バリアン世界の調査はあまり思わしくないようだね」
クリスの口から唐突にバリアンの言葉が出たことに驚き、しかし直ぐにクリスや彼の家族もバリアンとは無関係ではないことを思い出して言葉を飲む。
カイトとクリスは暫く連絡を取り合ってはいなかったが、父親同士はどうやら互いに情報を共有しあっていたのだろう。
クリスはカイトに小さく会釈して、まだほのかに湯気の立つコーヒーを口にした。
「私達家族もあれからバリアンやナンバーズについて調べていたんだ。未だこれといった成果は少ないが、少しでも君達家族の力になれればと思ってね」
クリスもバイロンも、数年前までは父Dr.フェイカーと共に異世界について研究していたのだ。
異世界についての知識は当然カイトよりも多く、人手も情報も何もかも足りない中、彼らの協力は何よりも心強いものである。
しかし、カイトはそれを手放しで喜ぶわけにはいかなかった。
アークライト家にあった出来事をなかったことには出来ない。
例え直接カイトは関係していなかったとしても、カイトはDr.フェイカーのやったことを否定できないのだ。
知らず押し黙っていたカイトの顔を伺い見て、クリスは僅かに口元を緩めた。
「気に病むことはない、カイト」
「しかし……」
「もう解決したことだ。今回のこと、君達だけの問題だと言わないで欲しい。ハルトも君も、私にとっては家族のようなものなんだ。私だけじゃない。父も弟達も、君達家族に協力したいんだよ」
「……クリス」
「それに私達もバリアンには聞きたいことがある」
そう告げたクリスの表情はいつにも増して真剣そのものだ。
そして、クリスの言い分はもっともだった。
こうして進み出てくれる以上、カイトに拒む理由など無い。
「ありがとう」
「こちらこそ。……それに私は、前から君と一緒に研究したいと思っていたんだよ」
「え……俺は、クリスや父さん達に比べたら……」
カイトには彼らのような専門知識は無い。
バリアンについて調査をしていると言っても、大きな解析をしているのはカイトではなくオービタルなのである。
ハルトのためだけでなく今となっては自分自身のためでもあるのだが、本格的な分析についてカイトはまだオービタルに頼らざるをえない程無力な存在なのだ。
謙遜ではなく事実としてそう告げたカイトに、それなら……とクリスは口を開いた。
「わからないことがあるのなら、また私が教えよう。いつかのように」
カイトが驚いて顔を上げると、クリスは見覚えのある柔らかな笑みを湛えたまま、おもむろに右手を差し出す。
カイトの脳裏に、初めて彼の手を取った時の記憶が鮮やかに蘇った。
久しぶりに交わしたクリスとの握手は、酷く懐かしさを掻き立てるものだった。
カイトにとってあの時と変わらずクリスの手は大きく、ひんやりとしていたが、クリスだけが昔と違うカイトの手の感触に一人その意味を噛み締めるのだった。
時系列はサルガッソから帰ってきた後の設定です。
短め。
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■再会
あの古戦場での戦い以来、カイトは父とともに研究室に篭りっきりの生活を送っていた。
アストラルの飛行船に記録されたデータを事細かに解析し、いち早くバリアンに関するより多くの情報を収集するためだ。
バリアンについて、現時点ではまだ情報らしい情報は集められていないのが現状だ。
奴らがこの世界に現れた時に発生する強大なエネルギー反応を捉えてからの対応では後手後手にならざるをえない。
いつまでもそんな状態では駄目だ。
数時間の仮眠を終え父の待つ研究室に戻ったカイトは、扉の前に立った所でふと嗅ぎ慣れたコーヒーの芳香に気づく。
「また、父さんは……」
カイト以上に解析にかかりっきりな父は、眠気をコーヒーで抑えつけるような生活をもう何日も続けている。
いくら多くの情報が欲しいからと言って父が体を壊したのでは意味が無い。
そう苦言を呈したカイトの言葉も暖簾に腕押しとはまさにこのことだろう。
仮眠のため席を外したカイトの目を盗み、父はまた性懲りもなくコーヒーを飲んでいるのだ。
カイトは小さくため息を吐くと、天才と言われている割にどこか頑固で融通のきかない父に一言物申すべく、重く閉ざされた扉を開いた。
「いい加減、カフェイン中毒になっても知らないからな!」
投げやりな言い方になってしまうのも仕方がない、とカイトは半ば開き直るように叫んでいた。
しかし、覗きこんだ部屋の中、カイトの声に小さく肩を跳ねさせたのは思いもよらない人物だった。
「えぇと……すまない。どうも癖になっているようで──」
「え……」
父のものではない声。
カイトの声に振り向いた父のものとは似ても似つかない長い髪の毛に、カイトは思わずその場で立ち尽くす。
驚きか、それとも緊張からかぎゅっと喉が詰まるような違和感に、カイトはそれでも何とかその人物へ掛ける声を絞り出した。
「クリス……」
「久し振りだね。カイト」
元気にしていたかい?と声を掛けられ、カイトはまるで小さな子どものように、小さく頷くしかなかった。
「……父さんは」
研究室を見渡しても父の姿は見当たらない。
つい先程まで仮眠を取っていた自分にわかる筈もなく、カイトはクリスに尋ねていた。
「あぁ。Dr.フェイカーなら、仮眠を取っているよ」
カイトの問いに答えながら、クリスは何故か申し訳なさそうに、手にしていたマグカップを机に置いた。
「勝手に頂いてしまって悪かった。昔と同じ所にあったから、つい癖で」
「いや……構わない」
クリスの謝罪にカイトは首を振る。
「てっきり父さんだとばかり思っていたから……」
そんなカイトの言葉に、クリスは苦笑を漏らした。
「カイトに止められるほどコーヒーが手放せないということは、バリアン世界の調査はあまり思わしくないようだね」
クリスの口から唐突にバリアンの言葉が出たことに驚き、しかし直ぐにクリスや彼の家族もバリアンとは無関係ではないことを思い出して言葉を飲む。
カイトとクリスは暫く連絡を取り合ってはいなかったが、父親同士はどうやら互いに情報を共有しあっていたのだろう。
クリスはカイトに小さく会釈して、まだほのかに湯気の立つコーヒーを口にした。
「私達家族もあれからバリアンやナンバーズについて調べていたんだ。未だこれといった成果は少ないが、少しでも君達家族の力になれればと思ってね」
クリスもバイロンも、数年前までは父Dr.フェイカーと共に異世界について研究していたのだ。
異世界についての知識は当然カイトよりも多く、人手も情報も何もかも足りない中、彼らの協力は何よりも心強いものである。
しかし、カイトはそれを手放しで喜ぶわけにはいかなかった。
アークライト家にあった出来事をなかったことには出来ない。
例え直接カイトは関係していなかったとしても、カイトはDr.フェイカーのやったことを否定できないのだ。
知らず押し黙っていたカイトの顔を伺い見て、クリスは僅かに口元を緩めた。
「気に病むことはない、カイト」
「しかし……」
「もう解決したことだ。今回のこと、君達だけの問題だと言わないで欲しい。ハルトも君も、私にとっては家族のようなものなんだ。私だけじゃない。父も弟達も、君達家族に協力したいんだよ」
「……クリス」
「それに私達もバリアンには聞きたいことがある」
そう告げたクリスの表情はいつにも増して真剣そのものだ。
そして、クリスの言い分はもっともだった。
こうして進み出てくれる以上、カイトに拒む理由など無い。
「ありがとう」
「こちらこそ。……それに私は、前から君と一緒に研究したいと思っていたんだよ」
「え……俺は、クリスや父さん達に比べたら……」
カイトには彼らのような専門知識は無い。
バリアンについて調査をしていると言っても、大きな解析をしているのはカイトではなくオービタルなのである。
ハルトのためだけでなく今となっては自分自身のためでもあるのだが、本格的な分析についてカイトはまだオービタルに頼らざるをえない程無力な存在なのだ。
謙遜ではなく事実としてそう告げたカイトに、それなら……とクリスは口を開いた。
「わからないことがあるのなら、また私が教えよう。いつかのように」
カイトが驚いて顔を上げると、クリスは見覚えのある柔らかな笑みを湛えたまま、おもむろに右手を差し出す。
カイトの脳裏に、初めて彼の手を取った時の記憶が鮮やかに蘇った。
久しぶりに交わしたクリスとの握手は、酷く懐かしさを掻き立てるものだった。
カイトにとってあの時と変わらずクリスの手は大きく、ひんやりとしていたが、クリスだけが昔と違うカイトの手の感触に一人その意味を噛み締めるのだった。
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